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No. 30 北海道医療新聞 第2232号より〜北大形成外科学教室

 2018年(平成30年)7月6日、北海道医療新聞 第2232号に、北大形成外科学教室の紹介記事が掲載されました。私が、記者よりインタビューを受け、その内容をまとめられたものです。ご一読頂けましたら幸甚です。

“北大形成外科学教室(山本有平教授)は、形成外科分野の全般にわたって先進的な医療を展開。道内外の関連病院と連携して地域医療に貢献する一方、教授をはじめとする優秀な人材を輩出し、国内の形成外科の発展にも寄与している。近年は、各種再生医療など最新の研究も手がけており、臨床、基礎研究、教育、学会活動の各分野で国内をリードしている。”

【幅広い臨床分野で高度な医療を展開】
 同教室は、1965年に北大病院皮膚科の診療班を基礎として開設し、78年には国立大としては2番目に形成外科診療科が新設され、大浦武彦氏が初代教授に就任した。87年に形成外科学講座に改組され、95年には杉原平樹氏が2代目教授に、2005年4月に現在の山本教授が就いた。
 臨床面では、頭蓋顎顔面外科分野で唇裂・口蓋裂や小耳症、瞼や頭部も含め先天性の形態発育不全に対し、歯科口腔外科、耳鼻咽喉科、脳神経外科等とチームを組み、集学的な治療を行っている。
 各種身体の悪性腫瘍に対しては、腫瘍切除後の再建外科を担当。耳鼻咽喉科や歯科口腔外科などと連携し、顔周辺では副鼻腔がんや歯肉がん、舌がんなどの術後再建を実施。ここ数年ニーズが増している、乳がん切除後の乳房再建も担当している。消化器系では肝臓がんやすい臓がんなどで、血管もがんに侵され合併切除されたケースでの血行再建をマイクロサージャリーで行っている。
 こうしたマイクロサージャリー技術は、移植外科との連携のもと、各種移植手術における難しい症例に対しても血管吻合等でも応用している。
 近年、生活習慣病等が進行し、糖尿病や閉塞性動脈硬化症や末梢血管疾患による下肢潰瘍、長期療養による褥瘡などの増加により、注目されているのが、創傷外科領域。外科が専門分化してきた中で、創傷治療を行う一般外科が少なくなり、形成外科が担うケースが増えているのが現状だ。同教室では、血行再建などで下肢切断などを防いでいる。
 さらに、道民の大きなニーズを受け、北海道の基幹病院に先駆けて、高齢者を対象とした整容・美容外科を開設し、抗加齢医療の外科部門を担っている。

【全国学会や研究で新たな局面を創造】
 こうした臨床面での幅広く先進的な活動実績は、全国規模の学会活動という一つの成果につながっている。日本形成外科学会が主導となって10年前に日本創傷外科が設立された際、同教室から山本教授が代表理事に就任。さらに2011年7月には札幌市で開かれた第3回全国学会を主宰した。
 日本乳癌学会と日本形成外科学会が共同で、乳房再建手術の技術的な発展、普及啓発を目的に12年3月に日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会を発足した際には、設立理事の1人として山本教授が活躍。15年には、第3回全国学会を札幌で開催している。
 同教室が皮膚科から独立した経緯もあって、12年には形成外科として初めての主催となる日本皮膚悪性腫瘍学会を札幌市で行っており、皮膚腫瘍外科分野では、道内でパイオニア的な役割を担っている。
 形成外科領域では長い歴史をもつ日本頭蓋顎顔面外科学会には、同教室の歴代教授が会長に就任し、学会活動の活性化に貢献。今年の10月11日から2日間、京王プラザホテルで開かれる第36回全国学会の主幹を同教室が務める。
 19年5月15日からは、国内の形成外科の集大成である第62回日本形成外科学会総会・学術集会を札幌市で開催する予定だ。19年は北大医学部の創立100周年でもあり、山本教授は「記念すべき年に、大役を果たせて光栄」と話す。
 臨床と同様、研究面も形成外科のさまざまな領域をカバー。毎年6〜8人の大学院生が在籍しており、創傷治療では傷の治り方のメカニズムを、悪性黒色腫では転移の仕組みやリンパ節における免疫機能の解明を目指している。
 顔面神経麻痺をテーマに神経再生の方法について、分子生物学的な面から基礎研究を実施。他科との共同で、羊膜由来の幹細胞を用いた脂肪細胞や顔面神経の再生、創傷治療への応用等について研究を進めている。
 同教室は最後の砦としての機能のほか、小児の唇裂・口蓋裂等、長期間にわたってフォローを必要とする治療など、一般的な医療機関では対応が難しい部分を担っている。山本教授は、大学病院の機能は、高度先進的な医療を生み出す施設であり、「次の局面を生み出す、チャレンジングな存在でなければならない」と力を込める。

【学人としての研究も重要な使命】〜山本教授インタビュー
 今年から始まった専門医制度では、専攻医の大都市集中という実情が顕著となった。しかし、そうした中で、当教室は形成外科分野では症例数、連携病院数などは全国有数の規模となっている。形成外科のニーズは年々増しており、将来、さまざまな領域で活躍できる道が整いつつなる。これまでも数多くの優秀な人材を輩出してきた。08年に関堂充講師が筑波大教授に就任。17年12月に小山明彦講師が福島県立医大の教授に就いたほか、今年の4月に古川洋志准教授が愛知医大の特任教授に選ばれた。
  これからも全国で活躍できる人材育成を続けていくので、興味のある方はぜひ当教室に来てもらいたい。
 私は、研修医に医師には2つの使命があると考える。一つは、高度先進的医療や、質の高い標準医療を提供し、さまざまな人に貢献すること。
 もう一つは、形成外科は診療科であり学問でもあることを理解し、学人として基礎と臨床の両方の研究をしっかり進めることだと研修医に話している。
 しかし、普段の業務の中では研究時間をつくることは難しい。研究の場として最適なのは大学院だ。難しい手術も経験でき、学会発表もできる。当教室では、6割が大学院に進学している。これは形成外科では珍しいことで、今後40年以上医師として働く中で、大学院の期間は10分の一に過ぎない。そのわずかな期間を費やして使命を果たしてもらいたい。
 専門医としての専門性は、肩書ではなく、症例経験や技術、知識であり、それは学会や論文ではじめて認められるものだ。数ある専門領域の中で迷うことがあるなら、まずは大学に戻る事も一つの方法だと考える。大学院の4年間は学位だけでなく、バックボーンとなる専門性を見極め、最初の一歩を踏み出す機会となるだろう。当教室では、そうした学生を継続して支援していく。

2018年7月6日
山本有平

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