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No. 19 「教授回診」

 

 昨今、いろいろなタイプの医療ドラマが、TVで放映されています。私にとって、最も印象深いのは、往年の名作、田宮二郎が主演した“白い巨塔”です。その中で、現在でも鮮明に覚えているシーンの一つが、大名行列のような教授総回診です。「財前教授の総回診が始まります。」という看護婦長の号令の下、その権威をあからさまに見せつけるような集団が、病棟内を闊歩します。私は幼い頃に、“大学病院というところは、凄い場所だなあ”と畏怖の念を抱いたものでした。
 さて、北海道大学病院形成外科ではどうでしょう。やはり、毎週火曜日の午後に、教授総回診を行っています。教授を先頭に、病棟師長、スタッフ医師、医員、大学院生、研修医、看護師、そして臨床実習学生を含め、時によっては総勢20名以上の大集団になります。全員で全ての病室を訪れ、私から一人々の患者さんに「こんにちは。具合はいかがですか?」と挨拶し、声をかけて廻ります。手術が順調な経過を辿っていれば、「あなたの執刀医の先生は、とても手術が上手で有名ですよ。」と言って、患者さんに喜んでもらいます。一方、治療経過がおもわしくない時は、「主治医の先生を中心に、一生懸命頑張って治療しています。これから良くなりますよ。」と言って、患者さんに少しでも安心感を与えるようにしています。しかし、患者さんの前で、主治医や病棟担当医と治療方針や病状経過について、ディスカッションを行うことは決してありません。それについては、当日のモーニングカンファレンスで2時間近くをかけて、十分に討議が済んでいるからです。このようにして、約30名の患者さんに行う総回診は、約20分で終わります。
 では、教授総回診を何故行うのか?
 私は、総回診終了後、臨床実習の医学部学生に、その理由を以下のように説明しています。教授総回診を行うのは、2つの意義があります。1)北海道大学病院形成外科から受けている治療に心から満足しているのか?〜それは、我々治療する者が、患者さんやその家族に直接会い、幾つかの言葉を交わして、彼らの表情や言葉から初めてわかるものです。治療がうまくいっていても、何かしら医療サイドに不満を持たれる方もいます。反対に、治療がうまくいっていなくても、担当医の真摯な診療態度にとても感謝されている方もいます。私は、カンファレンスで報告される、術前中後スライドや経過表ではわからない、そのような患者さんの気持ちを少しでも把握するために総回診を行っています。2)あなたの治療は、北海道大学病院形成外科医療スタッフ全員で考えて行っています。〜私が総回診で初対面の入院患者さんも多くいます。その際、当日朝に検討した、それぞれの患者さんの病名、治療経過、今後の方針について、患者本人とお話します。その事により、患者さんは、「初めて会う教授でも私の病状について知ってくれている。決して、主治医と病棟担当医だけの判断で治療を行っている訳ではない。」と気付いてくれます。北海道大学病院形成外科では、教授以下多くの医療スタッフが協同して治療計画を立てている事を、総回診を通じて患者さんに伝えるのです。
 私が行っている教授総回診について述べましたが、周りから見るとやはり、教授が多くの人間を引き連れて行進する模様は、権威の象徴に他なりません。“権威”というものは、正しい方向に使うには素晴らしいと考えます。勿論、その悪用はもってのほかですが、しかし、使わないという事もまた良くありません。総回診に限らず、教授の持つ権威を世の為、人の為に、適切に役立てて行きたいと願っています。

 

〜形成外科55巻11号“随想”より
2012年12月1日 山本有平

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