今年の1月に日本がん治療認定医機構が実施した認定医試験を受験した。私にとって、四半世紀前に受けた医師国家試験、そして30代前半に受けた日本形成外科学会認定医試験(当時)以来の“お受験”である。私の家庭において“お受験”といえば、私の息子たちが現在頑張っている大学受験や高校受験を意味しており、私自身は父親の立場から協力を惜しまずにいるが、正直言って、受験する本人たちに比べて切迫感は薄い感じがしてきた。そんな時に訪れた、久しぶりの“お受験”である。幾ばくかの緊張感の高まりを、年甲斐もなく感じた。
日本がん治療認定医機構は、日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、および全国がんセンター協議会から推薦を受けた理事により運営されており、一定水準のがん治療を実践する優れた医師の要請と認定を目的としている。日常の形成外科診療において、皮膚軟部組織腫瘍の外科的治療および各部位の癌治療における再建外科部門は非常に重要な分野を占めており、私は以前より本機構の動向に注目していた。
がん治療認定医制度は、1)暫定教育医、2)研修施設、3)認定医の3つの資格の新規認定を骨子としている。最終的な目的であるがん治療認定医を養成していくためには、そのための“教育者”と“教育施設”が必要であり、1)と2)はそれに相当する。1)と2)に対し、今回は申請書類による審査が行われ、昨年の秋に私と私の施設は両方の資格が無事に認定された。さて、3)の認定医であるが、資格を得るためには2日間のセミナー受講と認定医試験受験が課されており、試験内容は相当難しいもので、合格するのは至難であるという噂が聞こえていた。それにもかかわらず、昨年の10月10日深夜0時から、Web上で開始された受験申し込みは熾烈を極め、数時間後には1700名を超える定員が埋まってしまい、私もかろうじて増員枠で受講できることになった。
いよいよ、今年の1月13〜14日に、東京明治大学アカデミーホールにてセミナーと認定医試験が開催された。セミナーは、基礎的ながんの生物学、腫瘍免疫学、さらに疫学や統計学、倫理、そして病理学、化学療法、放射線治療、および緩和医療、後半では、消化管〜肝・胆・膵〜呼吸器〜乳腺〜血液〜リンパ腫〜泌尿器〜婦人科〜頭頚部〜骨軟部・皮膚の全領域におよぶがん治療に関するレクチャーが各領域の専門家計24名により行われ、受講総時間は約14時間におよび、それをホール内のクッションも乏しい、足を伸ばすこともできない狭い椅子に座りながら、うたた寝することも許されずに受講することは、私の忍耐力を再確認するなかなかの機会であった。引き続き行われた筆記試験は、マークシート方式で60問が出題され、その内容もしっかりしたもので、制限時間を目一杯使用することを余儀なくされた。濃密な2日間を終えて、へとへとになりながら空路帰途に着いた。機上で、スパークリングワインを飲みながらの正直な感想としては、“もう2度めは無いな!”といったところだったかな?
大学に戻り、数日後には講演のために米国へ向かった。海外出張に忙殺され、試験の結果についてはすっかり忘れていた。帰国すると、教授室の机の上で山積みになっていた郵便物の中に合格通知を見つけた。はにかんだような淡い嬉しさがこみ上げて来た。
私の中で、今回、認定医試験に臨んだ理由は2つある。第1は、もちろん皮膚軟部組織腫瘍の治療ならびに頭頚部癌や乳癌切除後の再建外科に携わる医師として、一定水準の治療を実践するがん治療認定医の意義を重要であると考えたこと。そして、第2は、近い将来、日本形成外科学会においても必ずや論議されるであろう、2階建ての特定領域疾患・技能専門医や指導医の認定制度の設立に際し、先行する日本がん治療認定医機構の認定制度に受験者として参加することは、貴重な経験になると考えたからである。ある領域の認定医制度を立ち上げる際に、最初に“教師・試験官”に相当する暫定教育医および“専門学校”に相当する研修施設を設定することは非常に意味深い。今回、受講者・受験者として自ら身をもって経験し感じた、制度の優れている点、そして改善を要する点を十分見極めて、今後の活動に生かしていきたい。
最後に、本制度の審査において、いずれの資格も「基本領域学会の専門医」であることが申請の必要条件とされている。幸いにも日本形成外科学会は、基本領域の学会として認められており、その認定を得るためにこれまで苦労されてきた先達の方々に心から感謝する次第である。