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No. 5 これからの抱負と展望:研究

 次に、私の “研究” に関するこれからの抱負と展望について述べます。

1. 基礎研究分野

 これまで、本講座は各関連基礎分野及び施設の御協力を得て、形成外科学分野の臨床治療に寄与し得る基礎研究体系の確立を目指してきました。主な研究領域として、1)血管内皮細胞及び皮膚微小循環動態関する基礎的研究、2)悪性黒色腫を中心とした皮膚悪性腫瘍の増殖・転移・浸潤に関する遺伝子解析、3)ケロイド発生制御機構の分子生物学的解明、4)先天性発育不全疾患のゲノム解析、5)顔面膜性骨再生に関する基礎的研究、6)肉眼解剖学的手法を用いた新しい自家組織移植法の開発等が挙げられます。私は、その中で、再建外科学、脈管学、腫瘍生物学を中心とし、数多くの研究計画のデザイン・実践に携わってきました。これからも、これまでの研究業績を基にし、大学院生や教室員と共に、各関連分野及び施設との共同研究をより一層推し進め、国際的評価に値する有意義な研究体系の発展に努めたいと考えております。さらに、次世代の医療に貢献するべく、再生医学・医療のフロンティアを開拓し、その臨床応用の実現のために、脈管再生医学分野の研究を積極的に展開していきたいと考えています。

2. 臨床研究分野

 私の主たる臨床研究分野として、自家複合組織移植および微小血行再建による機能的・整容的再建外科が挙げられます。これは、形成外科学分野はもとより、診療科の枠にとらわれず、頭頚部外科、消化器外科、乳腺外科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科など、複数の診療科とチームサージャリーを行ない、悪性腫瘍拡大切除術後の再建や移植置換医療において、マイクロサージャリーの技術を駆使し、遊離複合組織移植術ならびに微小血行再建術を応用して、高度先進的な機能的・整容的再建外科手術を行ない、生命的予後に加えQOL の向上を目指す臨床研究です。再建部位は、頭蓋底、眼窩、上顎、下顎、舌・口腔底、咽喉頭、消化器、腹腔内血管、胸腹壁、乳房、骨盤部、四肢と全身に及びます。これまで、数多くの新しい再建方法,手術手技および優れた治療成績を報告しており、特に、1)消化管再建・乳房再建における血管付加吻合の応用、2)Buttress理論に基づいた上顎再建法の確立、3)動的舌再建術の開発、4)肝動脈再建におけるBack wall techniqueの導入、5)各種皮弁・腸間膜弁を利用した上縦隔再建等は国際的にも非常に高い評価を得ております。平成15〜17年度は、厚生労働科学省の効果的医療技術の確立推進臨床研究事業の班員として、上顎・頭蓋底がんの切除と再建手術の標準化に関する研究に参画しており、国際基準に誇れる安全で信頼性の高い頭頚部再建医療の樹立に努めています。今後は、これまで培ってきた経験を生かし、確立してきたチーム医療のさらなる充実および各診療科に御協力を依頼して、新たな分野におけるチーム医療の構築そして発展を目指していきたいと考えています。これから期待される新たなチーム医療を挙げます。

  耳鼻咽喉科と共同した機能的小耳症外科治療
  頭頚部外科と共同したnetwork型顔面神経麻痺外科治療
  皮膚科、核医学および放射線科と共同した集学的皮膚悪性腫瘍治療
  泌尿器科と共同した泌尿生殖器再建外科治療
  整形外科および血管外科と共同した難治性下腿潰瘍再建外科治療
  婦人科と共同した予防的リンパ再建外科治療

 次に、顔面神経麻痺症例に対する総合的外科治療があります。新鮮例では、各種神経移植・移行術を中心とし、陳旧例では各種筋肉移植術や整容的再建術を施行し、完全・不全型の顔面神経麻痺の動的および静的再建を行ってきました。さらなる治療成績の改善のため、電気生理学的実証を含めた端側神経縫合による神経再建ならびにneural signal augmentation & double innervationを利用したnetwork型神経再建の研究を進め、さらにFunctional Electrical Stimulation技術の臨床応用も含め、顔面神経麻痺の新たな治療戦略を展開していきたいと考えています。

 また、皮膚軟部組織悪性腫瘍の分野では、診断学や腫瘍外科学、抗癌薬・免疫強化薬を用いた化学療法に関する臨床研究を推し進め、北海道大学医学部・医の倫理委員会の承認を得て、皮膚悪性腫瘍におけるγ-Probe 法・色素併用法による Sentinel Lymph Node Biopsy とその臨床的意義の解明を、核医学講座と病理部の御協力をいただき推進しております。さらに、腫瘍細胞の抗癌薬感受性試験に基づいたテーラーメイド化学療法や癌ワクチン・細胞治療による腫瘍免疫療法の開発にも着手する予定です。今後、国内外の治療機関とも提携し、長期治療成績の改善および皮膚悪性腫瘍患者のより一層の QOL 向上を目指した低侵襲外科的治療法の確立に貢献していきたいと考えています。

 四肢慢性リンパ浮腫の治療では、マイクロサージャリーの技術を応用したリンパ管静脈移植術を開発し臨床応用することにより、多くのリンパ浮腫の患者さんに福音をもたらすことができました。しかし、本手技には、治療成績の不安定という課題が残されており、今後は予防的リンパ再建外科や脈管再生医療の臨床応用を視野に入れ、慢性リンパ浮腫の治療に新たな方向性をもたらしていきたいと考えています。

 そして、唇顎口蓋裂症例に対する頭蓋顎顔面外科治療やvascular malformationに対するレーザー治療・硬化療法の分野においても、これまでの本教室における治療成績を厳密に分析および評価し、オリジナリティー溢れる独創的な北海道大学形成外科の治療指針・アルゴリズムを構築し、世界に向けて発信していきたいと考えています。

2006年4月2日
山本有平

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